創作小説…フコイダンの疑惑

こちらの机から見ると、マーカーしてある

 こちらの机から見ると、マーカーしてあるのはその『昨日の事件とは関係が無いだろう』の部分のように見えた。なぜ俺はその部分にマーカーをしたのだろうか。その新聞を篠塚から貰ったのは昨日の昼前だ。彼は何時も必要が無くなった新聞を次の日に俺の部屋に持って来てくれる。だから俺は毎日、昼頃に一日遅れの新聞を読む事になる。それで別に不自由はない。

 特に見たいテレビがある訳ではない。気になるタレントが居る訳でもない。ただ、どんな事件がこの世間に起こったのか、それさえ解れば、一日ぐらい遅れても問題がある訳ではなかった。それに俺にとって一番いい事は無料ということだ。「ちょっとすいません」そう言って、俺はその新聞を自分の机の上に引き寄せた。

 俺は何故、この記事のこの部分にマーカーを引いたのだ。じっと睨む様にしてそのマーカーを見ると、俺の部屋のテレビの前にある、赤いペンで線を引いた。という感じでは無かった。薄い赤色のマーカーに見え、どちらかと言うと少し滲んだように見えた。昨日篠塚から貰った時にはこのマーカーは付いていなかった。その自信はある。

 これだけ目立つように引かれているのだから俺の記憶に間違いは無いだろう。もっとも目立つように引くからこそマーカーの意味は有るのだが。だからこの新聞のマーカーは俺の部屋に来る前に、誰かが引いた訳ではない。としたら俺しかいない。昨夜だ。昨夜かなり飲んだから、その時だろう。思い出せ、思い出すんだ。何を思って引いた。何故この部分に俺はマーカーを引いた。

 あまりに俺が真剣にその記事を見ているのが気になったのか、それとも待ちくたびれたのか、目の前の女性が口を開いた。「もう良いわ、お宅に頼む事にするから。私の主人を調べて」そうそう、そうこなくちゃ。少し調べれば旦那の浮気などすぐに分かる。

 これで少しの間メシにありつける。だがきちんとした依頼をこの女性から受け、書類として残して置かねばならない。書類にしておかないと、後でもめた時に自分が困る原因になるからだ。「それで吉永様、ご依頼の内容、つまり御主人の浮気ですね。その内容を正確に言ってもらえるでしょうか」…文法を無視した家庭教師に続く。